5、口を慎む
・君子以て言語を慎み、飲食を節す。(論語)
言語を慎んで徳を養い、飲食を節して体を養う。
・人は最も当に口を慎むべし。口の職は二用を兼ぬ。言語を出し、飲食を納るる是なり。言語を慎しまざれば、以って禍をまねくに足り、飲食を慎しまざれば、以って病を致すに足る。諺に云う、禍は口より出て、病は口より入る。(言志四禄)
人は特に口を慎まなければならない。口は二つの機能を兼ねている。一つは言葉を発することであり、もう一つは飲食物を取り込むことである。飲食を慎まないと病気になることがある。諺に「禍は口より出て、病は口より入る」とあるのは、これを言っているのである。
・人、得意の時はすなわち言語おおく、逆意の時はすなわち声色を動かす。皆養の足らざるを見る。(言志四禄)
人というのは、得意のときは饒舌になり、失意のときは声や顔に心中の動揺が出るものである。これらは皆、修養の足りないことを表している。
中村天風
・絶対に消極的な言葉は使わないこと。否定的な言葉は口から出さないこと。悲観的な言葉なんか、断然もう自分の中にはないんだと考えるぐらいな厳格さをもっていなければだめなんです。
・どんな場合であっても不平不満を口にしないこと。・・・不平不満のある人は、しじゅう上ばかり見て、下を見ないでいる。はたはみんな幸福で、自分だけがこの世の中で一番不幸な人間のように考えている。この考え方から出てくる言葉は、必ず未練であり、愚痴であり、もう価値のない世迷いごとだけであります。
・言葉は言ってしまった時に、その音響はなくなっちゃっているようだが、波動は残っている。その波動が残っているということを考えてみたならば、かりそめにも我が口から人の幸福を呪ったり、人の喜びを損なうような言葉は冗談にも言うべきではないということが、わかりはしないかい?・・・言葉はねえ、言霊というのが本当なのよ。言葉は魂から出てくる叫びなんだから。
・心の本当の満足というのは、常にできるだけ自分の言葉や行いで、よろしいか、他人を喜ばすことを目的とする。ところが、それを何か他人の犠牲になる、そんな生活のように考える人もありゃしないかい。ともかく、他人の喜ぶような言葉や行いを、人生の楽しみとするという尊い気分になって生きてごらん。今日から。
森信三
・人間のたしなみというものは、言葉を慎むところから始まるものです。
・古来傑出せる人ほど、コトバの慎みは特に重視せしものなり。良寛には「戒語」が四通りもあり、その内最大なるものは、九十箇条にものぼれど、そのすべてが言葉に関する戒めなり。また葛城の慈雲尊者は、「十善法語」の十戒中、言葉の戒めが四箇条を占める。もって古人の言葉に対する慎みのいかに深きかを知るに足らん。道元も曰く「愛語よく回天の力あるを知るべきなり」と。
〈注〉四箇条とは(一)不妄語(二)不綺語(三)不悪口(四)不両舌
妄語=嘘をつくこと 綺語=真実を離れた、巧みにかざりたてた言葉
両舌=二枚舌(両方の人に対してちがったことを言い、両者を争わせること)